6人いた直属の上司が3人になり、それでも回っているうちの職場はある意味おめでたいのかもしれない。
私は年齢的にも業務内容的にも上司に近い。
ある分野では指導的立場にあるらしい自覚はあるが、権限がないことには立ち入らないようにしている。
あくまでも権限の話だ。
知識なら惜しみなく出すが、物によってはあいにくここの連中には不要のようである。
ならば黙るしかない。
それは確か木曜日のこと。
4月に他所へ異動した年下の元上司(以下、R子と呼称)がやってきた。
R子は表面的にはお菓子を持ってねぎらいに来た体だが、彼女は異動先でボス(以下、ボス、またはEと呼称)と合わず、もうこの6月には仕事を休んでいる、と他の人から聞いて知っていたが、それをすっかり忘れていた。
つまり、私とR子とはその程度のお付き合いということ。
この件は労働組合まで話が上がったらしくまあ大げさにしたもんだなとも思ったが(組合に話を上げたのはおそらく私の上司のJだろう)、彼女、外に出れるくらいになったのだろうか。
彼女が私を呼んだので「あら、今日はお休みでしたか」と私はさりげなく話かけたが、あ、そういや彼女は休んでいたんだ、とあとから思い出したくらい、もう遠い存在である。
3月末、内示が出て異動先を知った当時の彼女は正直、自分が異動の対象になるとは思いもしなかったのだろう。
私は異動先は聞いていなかったが、彼女は対象者だろうと知っていたので黙っていた。そこのボスとは合いそうにない、病みそうだ、私どうしようと、異動する前からギャンギャン騒いでいた。
そして案の定、メンタルを病んでしまった。
知る人は少ないが、この方、「前科」持ち。
以前小規模のところに昇格と同時に異動したのだけど、そこで一回同じようになったことがあるはず。
だから今回の件も「確信犯」に近い、と私は見る。
「なんか、R子さん来てましたねえ」と、私は今年異動してきたMさん(40代の独身女性)に翌日、昼ごはん後のロッカー室で話しかけた。
「ええ、来てましたねえ。ワタシ、(メンタルやられて)休んでいるのすっかり忘れていて『今日お休みですか~』なんて話しかけちゃいましたよ」
「私もよ~。だけどさ、あのボスはそこまでひどい人じゃないよね??確かに仕事には厳しい人だけど、言うべきことを言ったまでじゃない?それで参ってしまうっていうのは、申し訳ないけど、R子さんが仕事できないってことじゃない??」
「私もそう思います、Eさんはそんな人じゃないです。組合まで話上がってしまってEさんもかなり驚いたようです。組合からいろいろ聞かれたって言ってました。以前一緒に働いていたTさん(Mさんとは前の職場で上司と部下の関係)にEさんが相談ってことで連絡してきたみたいで」
「あれ、EさんとTさんってどっかで一緒に働いたっけ??」
「Sで一緒でした。」
「ああ、Sでか~。あそこ忙しいもんね」
Mさんは続けた。
「それに・・・・・EさんはTさんにこうも言っていたみたいです。俺の方こそいい迷惑だわ。仕事全然出来ないもの、あの人(R子)。それに、R子さんの前の前にいたHさんも同じような扱いを受けていたみたいですね。彼、新人なんですけど、Eさんがちょっと厳しく当たったみたいで。1年で異動したものね~この人も」
「多分、Eさんは成長して欲しいと思って厳し目にあたったんだと思う。それが裏目に出たんだよね。」
「私もそう思います。Eさんはそんな人じゃない」
「今日は、はちさんと話ができてよかったです。ここに居るとなんだか、良くない方に流されるのが分かるので、それを抑えるのに大変なんです。またお茶しましょうよ、はちさん」とMさんは私に言った。
正直、彼女は外にメンターがいるのは分かっていたので私の出番は不要かと思っていたが、私が今の職場にいるうちは力になってやろうと改めて思った。
R子は菓子を持ってねぎらいに来たのも、「ここに戻りたい」という気持ちの表れである。
しかしもう、彼女はここに戻ることはできないだろう。
きちんと、肩書き通りの仕事をしてね。